基和戸/キーワード

私たちのコアバリュー③

「抱え込まず、手放さず」 例え福祉制度がなかったとしても、ご本人とご家族が必要とされていたら、出来ることから支える仕組みを切り開いてきた

メンバーさんたちは特別支援学校の高等部を卒業されて、成人期の通所サービスを利用されます。私たちもまた多くの場合18歳から出会います。成人期のサービス利用に「卒業」はありませんから、そこから長いお付き合いがはじまります。一番長い方だと40年近くつながっている方もおられます。
当然ですが親も段々と年齢を重ねていかれます。親がまだ若い間は我が子を大切に育てられ一緒に生活されますが、親が高齢期にさしかかると毎日の生活でいろんなことが負担になってきます。そして、いつの日かついに一緒に暮らしていくのが無理になる時がやってくるのです。

メンバーさんは成人期になられても、御家庭では親の介助なしに日々の生活が成り立ちません。私たちはここに家族の負担がある事を忘れてはなりません。通所サービスの場合、月曜日から金曜日まで毎日利用されても、一日の支援時間は約6時間・週で30時間程度になります。一方で一週間は24時間/日が7日間とすれば・・、週に30時間という数字は生活全体の約17%に過ぎません。つまり残りの8割をご家族が介助されて成り立っているのだということに目を向ける必要があるのです。

現在の統括管理者である中西は、駆け出しの職員の頃に忘れられない体験をしました。
ある御家庭に家庭訪問したときのことです。お母様からいろいろなお話を伺ったのち最後に一つ質問をしました。「もし今、何か望まれるとしたらどんなことですか?」するとそのお母様は「私ね、もし願いが叶うなら、この子よりも一日でいいから長生きしたい」とおっしゃったのです。
若かった私には、すぐにその意味は分かりませんでした。けれども大へん重い言葉でした。なぜ、母が子より先に死ぬわけにはいかないのか。それは我が子の面倒を見てくれる人がいないから、「私がそばにいてやるほかない」と考えておられるからだと知りました。それはこのお母様が悪いわけでも、子のせいでもない。社会の問題だと思うようになりました。
そこからご家族の負担を軽減できる仕組みが必要だと考えて、「家族支援」という発想が生まれてきました。当時はそれを十分に支えるだけの制度や我々の基盤もありませんでしたが、本当に求められているニーズはここにあると思い知らされたのでした。

重度障がい者が地域の中で、思い思いの暮らしをつくっていかれるためのサポートなど、はじめは何も分かりませんでした。それでも、まずはお一人の今晩の宿泊を、今月の生活の場所をと開拓していったのです。するとメンバーさんたちからも、「こんなの嫌だ」だとか「これでいい」という気持ちを表情で返して下さるようになっていったのです。
現在は職員達の様々な工夫と努力で、ショートステイやグループホームの制度を活用し、それぞれの御家庭の事情に合わせて支援出来るようになりました。親が体調を崩されて急な場合も宿泊できる場所を用意して対応しています。
あるとき、一軒家に泊まるメンバーさんが「(今晩は)お魚買いに行こー。」とスーパーへゆったりした足取りで向かわれるようになりました。御自分で暮らしを選び取って下さった瞬間でした。